【ブックレビュー】今知りたいサイバー犯罪事件簿-セキュリティの「落とし穴」を示す15の事件-

【ブックレビュー】今知りたいサイバー犯罪事件簿-セキュリティの「落とし穴」を示す15の事件-

2023, Jul 09    

サイバーセキュリティに関する書籍はこのブログでも何度も紹介していますが、今回紹介する本は3つの特徴があります。

1つは2023年に発売されたばかりの本ということ。サイバー犯罪における最新の情報を知る事ができます。日本でも現在進行系で発生しているランサムウェア攻撃、ロシア・ウクライナ戦争で使われているAIによるディープフェイク、SNSを活用したプロバガンダ・・・サイバー犯罪の進化はとどまることを知りません。一方で政府機関や企業がサイバー犯罪を防ぐための行動もまた、マルウェアを利用するなど物議を醸しています。サイバー犯罪の攻防はどちらも同じ技術が使われており、世のため人のためのために使う、と宣言した技術はいくらでも悪用可能なのです。

2つ目の特徴として、日本人が日本人向けに書いた本であること。日本人にも非常に読みやすい言葉が使われているうえ、日本で書かれた本ならではのエピソード「LINEのデータ管理」があります。LINEはコロナ対応でも使われるなど、日本社会にとって基幹インフラといえるアプリですが、その情報管理が甘かったことで批判を浴びました。クラウド上でのストレージにデータを保管することはどこでもやっています(僕の会社でももちろんやっています)が、データを保存している現地の法律が適用されるので、特に個人情報を保管する場合は注意が必要になります。

本書の最大の特徴は、一般人にとっては『それってサイバー犯罪なの?』と思いがちな「プライバシー」について多くのページを割いている点です。たとえば、Webサーフィンでブラウザに表示されるインターネット広告。これに用いられるユーザ識別子についても説明があります。「あなたが今欲しい商品、見たいサービスはこれですよね」が分かるインターネット広告はテレビのCMより効果が高いですが、裏を返せば企業に個人の嗜好を把握されているのです。Appleはプライバシーを重視する企業として知られ、また欧州ではプライバシーの意識が高く、GDPR のような法律も制定されました。プライバシーを侵犯することは犯罪という認識は世界で広がってます。みなさんも家の中が盗撮されていたり、読んでいる本がバレたり(思想の自由)するのは嫌なはず、しかし当たり前のように使っているインターネットサービスを提供している企業は同レベルのことが技術的に可能なのです。 一方でGoogleのサービスを無料で使えるのも、Googleがインターネット広告で利益を得ているからで、企業は利益を得られなければ存続できません。そのためOSや法律の規制を逃れてユーザ情報を取得しようという企業の動きは盛んです。にしても、Tiktokの『端末上の文字入力を取得してサーバに送信』は流石にやり過ぎでは・・・。 ユーザの閲覧履歴だけでなく、位置情報もプライバシーとなります。Googleマップを使っていると、位置情報のありがたさを実感します。その一方で『いつ、どこにいる』『どこに住んでいる』という情報は悪用された場合大きな問題となります。Googleの”ダーク・パターン”は、スマフォの設定で位置情報をOFFにしても、他の様々な場所のオプションをOFFにしない限り、Google自体には位置情報が送られ続けていた、というスクープです。不誠実ですよね。現代において『利便性』と『プライバシー』はシーソーの関係です。インターネット広告も僕にとっては「欲しい物がレコメンドされる」ということでありがたい面もあります。とはいえプライバシーには配慮してほしい。バランスが求められます。

僕自身インターネットを利用してサービスを提供する会社で働いているセキュリティ担当、この本に書かれていることは知っていなくては、そして考えなくては、と思いました。Googleがかつて標語としていた「Don’t be evil、(邪悪になるな)」は僕ら常々頭に入れておきたい。