サイバー攻撃から暮らしを守れ!

サイバー攻撃から暮らしを守れ!

2025, Nov 15    

別のブックレビューがたくさん詰まっているのですが、こちらのブックレビューを差し込みます。 ご存じ、日本憲政史上初めて女性の総理大臣となった高市早苗総理。かつては自民党のサイバーセキュリティ対策本部長を務めていたこともあり、さらには20年前にはイノベーション・科学技術政策担当大臣(兼IT担当大臣)もつとめており、日本でこの分野についてはもっとも経験値を持っている政治家の一人ではないでしょうか。総理大臣就任の所信表明にも

 AI・半導体、造船、量子、バイオ、航空・宇宙、サイバーセキュリティ等の戦略分野に対して、大胆な投資促進、国際展開支援、人材育成、スタートアップ振興、研究開発、産学連携、国際標準化といった多角的な観点からの総合支援策を講ずることで、官民の積極投資を引き出します。

とあります。そんな高市早苗総理が今から7年前に編著した本書、当時サイバーセキュリティをどう認識していたのか、今後の私たちセキュリティ専門家にとってどのような影響があるのかを探っていきます。

まず最初の章を読んで思ったのが、この本は一般的な”国民の皆様”をターゲットとしてはおらず、セキュリティに詳しい人向けに書かれていること。専門の単語も使われています。AIって8年前から(もっと昔から)言葉としてはありましたが、今の爆発的進化はさすがに予想できていなかったでしょうね。しかし当時すでにランサムウェアの用語が載っているとは、分かっている人には見えているのですね。2020年の東京オリンピックの時に「サイバーセキュリティ人材が足りない」と政府が言っていましたが、もともと高市総理が安倍元総理に渡していたセキュリティの提言に、2019年以降のセキュリティ人材の強化と法制度整備を推進するよう記載されていたようです。

次いで各産業で発生したサイバー攻撃についての説明を多くのページで割いています。報告書のようなフォーマットで、各産業の対策についても説明が冗長になっていること、箇条書きで記載されていることから、読者に読ませる文章というよりは、この文章を(多少改変したかもですが)実際に国会で提出したのだと自分は読み取れました。 セキュリティに携わっている人にとっては「そういえばそんなのあったな」と懐かしい気持ちになることもあるでしょう。しかし知識のない人が当時読めば「今サイバー攻撃はこれくらい身近になっているのか」と感じたことでしょう。そして当時と比較して、サイバー攻撃の質・量とも今は増えています。

アメリカのサイバーセキュリティ政策についても解説されていますが、この内容から高市総理はアメリカのサイバーセキュリティ界隈にもコネクションがありそうですね。アメリカのサイバー防衛策を日本に積極的に取り入れることも考えているはず。

感想としては、私たちがサイバーセキュリティ対策としてIPAなどの公的組織から実施するよう指示されている施策は、この章に書かれているような文書が国会で審議され、可決されたのち現場に降りてくるのだろうな、と思いました。「セキュリティ・バイ・デザイン」や「サプライチェーンリスク」「セキュリティを”リスク”から”投資”に」見慣れたフレーズがちらほらと。国会での議論から現場に落ちてくるのはタイムラグがありますね。また当時からすでに 「AIには多くの電力が必要となる」 ことに言及しており、AIのこの時代に高市総理が総理の立場にいる点にはとても期待しています。

最終章には当時の高市総理の個人的な考えも書かれており、高市総理はテクノロジーオプティミスト(、技術の進歩がもたらすポジティブな変化に対して楽観的な見方をする人や思想)ですね。以下のような課題をICTによって解決できると考えています。

  • 生産年齢人口の減少
  • インバウンドによる外国人への増加
  • 一次産業に従事する労働者の高齢化
  • AIとマイナンバーを利用した役所業務の効率化(SRE的に言えば”トイルの撲滅”)
  • スマートフォンを活用した医療、介護の効率化

そして高市総理にとって テレワークの普及過去数十年のライフワーク だそうですよ。この本が書かれたころはコロナの大流行は無かったのですが、コロナ禍を経て、テレワークは一般的になりました。政治的にもテレワークの普及は東京への一極集中問題を解消できる策になりますし、今後さらに加速させていくのではないでしょうか。