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2026年10月の気になるインターネット記事をピックアップ

2026年10月の気になった記事を読んでみる

今だから白状しますと、去年「XXXX年XX月の気になるインターネット記事をピックアップ」という記事を複数回投稿した背景は、セキュリティで書くネタが不足していた苦肉策でした。しかし見てくださいよ、先月は毎週どころか2日連続の投稿。如何にセキュリティ界隈が大変なことになっているかが分かります。度々言っていますが、セキュリティ担当が慌ただしいということは、世が乱れていることを意味しています。乱世です。この乱世はいつまで続くのだろうかーと思っていたのですが、それについて回答している興味深いツイートを見つけたのでまずはそちらの共有から。

今回のphp2shellにおいて価値ある情報発信をおこなってくれたGMO flatt Securityの取締役のツイート。長文ですが価値あるコメントが書かれています。 まずセキュリティエンジニアに対しては

・少なくともここから年末までは、このクラスの脆弱性がまだまだ出てくると考えておく必要があります。

・自社での緊急対応が落ち着いているならば、レガシーコンポーネント(数年塩漬けのシステム)、誰がメンテできるのか分からないオーパーツ的存在から順に、作り直し(Rebuild)と旧システムの廃止(Retire)を試みてください

SNSでは黙っていましたが、ここは僕の日記帳なので、自分の考えを書きます。 このブログに来る方は認識されていると思いますが、今回のPHP狂騒の原因は、脆弱性の対象となるPHPバージョンが膨大なこともあったのですが、それだけではありません。深刻さ大きく、影響範囲は広かったものの、普段通り公式からリリースされる予定通り公開されるパッチを当てれば良い話でした。しかしながら、公式で説明があったように、この脆弱性と攻撃手法が事前に漏れてしまいました。これによりパッチが出るまでの間、世界中のサーバが無防備な状態にさらされることとなりました。以下がタイムラインとなります。

  • 8月中旬: セキュリティ企業のCalifなどがAIを用いて脆弱性を発見し報告。パッチ一斉適用のための情報公開禁止期間(エンバーゴ)が設定される。
  • 10月17日: 公式発表の4日前に、Amazonの監視網等で攻撃者による悪用試行がすでに観測され始める。
  • 10月20日: フリーランスの技術者が「エンバーゴの存在を知らされていなかった」としてHacker NewsでCVE番号を暴露。同時期にCalifが誤って攻撃手法の動画を公開してしまい、SNSで一気に拡散される。
  • 10月21日朝: 動画を元にした攻撃手法が広まり攻撃が急増。さらに一部ベンダーが公式より6時間早く修正版コンテナを公開したため、差分から脆弱性の詳細が特定されやすくなる。
  • 10月21日 23:00: 事態の悪化を受け、PHP公式が予定を前倒しして緊急パッチを公開。パッチ適用が間に合わない各国の政府機関や企業サイトが一時閉鎖に追い込まれる。

今回高市総理が緊急に投稿をおこない対応できない場合はサーバを止めろ、とアナウンスしたのは、状況が急変し、パッチの公開まで待ったなしの状態になってしまったためです。とはいえ、平時からPHPのバージョンアップを行っている組織・ゼロデイの脆弱性が出た場合の対応手順を決めている組織にとっては、今回の騒ぎは比較的冷静に対応できたのではないでしょうか。関係者に(総理大臣も言っているよ、と)連絡したうえで承諾を得てサーバをメンテナンス状態にして、パッチ公開後にアップデートするだけで対応できました。つまりこのブログのタイトルにあるように事なきを得る為の対応を普段から継続している組織こそがセキュリティを立派に行っている組織と言えます。備えあれば患いなし、です。

自分も他人のことを批判できません。今回自分も10/21の夜にいろんな会社が緊急メンテナンスを行っているのを見て、急ぎ社内であれこれ対応を行いました。古いPHPが危険であることは分かっていたのですが、「仕事が忙しいから」「このサーバは利益を上げていないから」など言い訳を付けてメンテナンスを行っていた結果が、今回のドタバタの原因。自業自得と言えます。 今回仮に自社で大きなセキュリティインシデントが起きなかったとしても、この対応自体が本来の業務にはない異常な対応、それも高負荷。くたくたです。それが今後も立て続けに起こると言われたら、現場は耐えられないでしょう。セキュリティ担当として、今回の原因と改善策を練り、経営層に提示することが必要と思いました。

また、上記のツイートはCTOs(最高技術責任者)/CISOs(最高情報セキュリティ責任者)に向けて書かれています。

・新規機能の開発に割く時間を明確に落とすしかありませんここに。ここにリソースを充てることが CTO/CISO の仕事です。(他の誰もそれを決められないので。)

・敢えてリーダーが、セキュリティへの、時間・お金(・トークン)にアロケしてください。これは経営者にしか取れない択で、かついま技術経営者に求められることです。

これまでセキュリティはかけたお金に見合った効果が見えにくいと軽視されがちでした。昔から海外の企業に比べて日本企業はセキュリティにお金をかけていないとされていました。

”セキュリティ企業のポジショントーク”といえば身も蓋もないのですがw

しかしGMOクラウドに対するサイバー攻撃ではユーザのアカウントで勝手に取引がされたりと、サイバー攻撃が企業の死活にかかわるレベルになってきてしまっています。

こんなニュースばかりだと、「もうWebサービスを提供したくない・・・」という暗澹たる気持ちになります。ただここでこそセキュリティ専門家の役割。”セキュリティ専門家の仕事の9割はお金を出すマネージャー層との交渉にある”なんて言葉があります。お金の交渉は苦手なうえ、好きではないやつなのですが、経営層と意識がかみ合っている今こそ、会社に必要なセキュリティ対策の進言を行うときではないでしょうか。

国内で相次ぐWebシステムからの情報漏えい~ラックの観測から見える変化と、企業が今とるべき対策

2026年7月から9月のサイバー攻撃における手口や傾向について分析した内容。図で分かりやすいです。先日JPCERT/CCが緊急声明で出した気を付ける点と被っています。「まず確認すること」の3点「社内情報資産の棚卸」「侵入されていないかをチェック」「いらなくなった過去データの削除」始めていますか?

日本のサイバーインシデント

ニュース、セキュリティ専門メディア、公式発表から収集した、日本の組織に影響する公表済みサイバーインシデントを一覧でまとめたサイト。今日でフィルタしただけでも10組織くらい不正アクセスを受け、情報を漏洩しているのですが…信じられない。RSSフィードもありますし、今後もチェックし続けたいサイトです。

「侵入経路塞いだが、バックドアから……」不正アクセス105時間の攻防、分単位で報告 防災メールのアルカディア

行政の防災メールシステムで利用されているシステムのため、警察や市役所などの業務に影響が出ています。情報漏洩の可能性もあるとされています。 本件の特徴として被害側のアルカディアが不正アクセスに対する詳細な報告書が公開されたことです。特に、時間単位でどのような攻撃をされたかが分単位で報告されていることは珍しく、攻撃側のスピード感、と同時に防御側が必死に対応したことが伝わります。

不正アクセスの経過と当社の対処について

攻撃側はAIを活用して攻撃してきた可能性がありますが、その手法は徳丸本で紹介されているような典型的なWebアプリケーション攻撃手法のオンパレードです。後から言えば、徳丸本にもあるような基本的なセキュリティ対策をやっておけばよかった、と現場も悔やんでいるのではないでしょうか。

  • ディレクトリトラバーサル対策でサニタイジング
  • パストラバーサル対策にアクセスされたら困るファイルはドキュメントルート配下には配置しない
  • シークレットはファイルに直接書かずにAWSでいうシークレットマネージャのように外から変数で取得する
  • シークレットキーは有効期限を短くする

などなど。報告書にあるようにAIによるコードチェックや(それこそ攻撃側が使ったかもしれない)ペネトレーションテスト用AIを使うなど、これからはAIの力を借りて脆弱性をつぶしてからリリースする時代だと思います。つくづくBefore AIとAfter AIでソフトウェア開発の分野は一変した感があります。

この報告書から、自分も知らなかった知識をたくさん得ることができました。本事故の詳細な報告書を公開してくれたアルカディアさんには感謝しかありません。

  • APIに直接アクセスされることなくフロントエンド側から確実に認証認可してAPIを呼び出すOAuth 2.0 や 相互TLS (mTLS)の実装や
  • AWS WAFのbot ControlやIPレピュテーションルールの適用により、不審なアクセスの多発を検知してブロックすることの重要性

最後に紹介するのはご存じの人も多いであろうポッドキャスト「セキュリティのアレ」。セキュリティに関するポッドキャストにおいて質・量とも日本随一です。 僕も毎週楽しみにしていますが、今回は特に首を縦に振るシーンが多かったです。今毎日のようにセキュリティインシデントが起こっています。しかしこれをちゃかしたり、ランキング形式で面白がったりするものではありません(一般の人はともかく、「自分はセキュリティに詳しいんだ」と自負する人なら絶対にいけません)明日は我が身。みんなでセキュリティ意識を高め、この大嵐を乗り切らなければいけないのですから。

この投稿は投稿者によって CC BY 4.0 の下でライセンスされています。